2025/08/18 16:50

最近、MT車(マニュアルトランスミッション車)に乗っているというだけで、ちょっとした話題になるようになってきた。街を走る車の多くはオートマ(AT)車で、MT車は一部のスポーツカーや商用車、あるいは趣味性の高い車に限られる時代。MT免許を持っている若者の割合も減少しており、教習所ではAT限定での取得が主流になっている。
さらに、都市部では駐車場代や維持費の高騰、カーシェアの普及なども相まって、車そのものを持たない若者も増えてきた。もはや「車を持っている」こと自体がひとつのライフスタイルの選択となり、「MT車に乗っている」となると、それはもう趣味や嗜好の領域に突入している。
そんな時代に、「5万円のシフトノブを持たせたい」というのは、一見すると突飛な発想に思えるかもしれない。シフトノブなんて、カー用品店で見れば数千円。純正でも1万円もすることはほとんどない。機能性だけで言えば、たしかにその通りだ。だが、私たちが目指しているのは「機能」ではない。「価値」だ。
道具から、主張へ
かつての車は、日用品であり、移動手段だった。価格、燃費、使い勝手。そういった合理性が重視され、車は消費されてきた。しかし今、車を「持つ」こと自体が趣味や生き方を表現する手段になってきている。限られた人しか選ばない、敢えて不便を受け入れるMT車。それは言い換えれば、「運転そのものを楽しむ」という哲学を持った人々の乗り物だ。
そんな人々にとって、車は単なる道具ではない。愛着があり、個性があり、アイデンティティを重ねる対象だ。エンジンの音、シートの感触、ステアリングの太さ、そしてもちろん、シフトノブの握り心地。すべてが「自分の車」としての一体感を構成している。
つまり、シフトノブとは「手に伝わる車の感触」の最前線であり、最も身体に近いカスタムパーツのひとつ。ここにこそ、車への想いを凝縮させたいのだ。
なぜ5万円なのか?
なぜ、5万円という価格設定なのか。それはただの高級志向ではない。大量生産の既製品ではなく、職人がひとつずつ手仕上げした質感。素材の選定から製造工程に至るまで、細部にまでこだわった一点ものの価値。所有する喜び、触れる満足感、そして視界に入るたびに高揚感を与えてくれる造形美。そういったすべてを詰め込んだ結果としての価格なのだ。
人は「必要だから買う」モノにお金をかけるのではなく、「欲しいから買う」モノにこそ価値を感じる。時計や財布、靴やギターと同じように、シフトノブも“こだわりたい”人にとっては、自分の世界観を語るアイテムになる。
しかも、車という空間は閉じたパーソナルな空間でありながら、SNSなどで「発信」できる公開空間にもなる。車内のディティールにこだわることは、言ってみれば自分の趣味嗜好をオープンに語る一種のファッションだ。
市場の変化と、“最後のこだわりパーツ”
今や多くの車が電動化され、インターフェースはどんどんデジタルになっている。物理的な接点が減り、運転者と車との距離が広がっていく中で、シフトノブの存在感は逆に際立つ。MT車にしか存在しない“本物の操作感”。そしてその中心にあるシフトノブは、単なるパーツではなく「アナログとの接点」そのものなのだ。
だからこそ、ここに投資する価値がある。シフトノブは、今の車社会における“最後のこだわりパーツ”といっても過言ではない。走る楽しさ、触れる歓び、所有する誇り。これらをすべて手のひらの中に込めるのが、5万円のシフトノブなのだ。
未来に残すための挑戦
「そんな高いシフトノブ、誰が買うんだよ」と思うかもしれない。けれど、それでいい。誰にでも売れるものを作るのではなく、“わかる人に届けたい”という意思を持って作る。だからこそ、この価格でも選ばれるし、むしろ価格が価値の証明になる。本当にMTが絶滅してしまったら、それは寂しい。でも、今を生きている我々が、少しでもそれを楽しみ、価値を高めることで、未来にこの文化を残せるかもしれない。これは単なる“商品開発”ではない。“文化を継ぐ挑戦”なのだ。
MTを愛し、操ることに喜びを感じるすべての人に向けて、私たちはこのシフトノブを届けたい。5万円という価格の中には、職人のこだわりだけでなく、車文化への敬意、そして未来への祈りが込められている。